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京都大学工学研究科高分子化学専攻高分子合成講座高分子生成分野(澤本研究室)  
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(C)2005-2007
Sawamoto Laboratory, Kyoto Univ.
All Rights Reserved.

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研究内容

 

 

【研究体制】
 高分子生成論とは,高分子を生成する重合反応の基礎化学をさす.当究室では,世界に先駆けて見出したリビングカチオン重合リビングラジカル重合と呼ばれる精密重合技術をベースに,ビニルモノマーの付加重合における新規重合反応の設計と開発に関して世界第一線の研究を行っている.研究項目としては,重合制御の一般原理の確立,新規高分子の精密合成,重合反応場の設計・構築などがあげられる.

【研究内容】

1.リビング重合とは:通常の付加重合との違い

 通常の付加重合では,開始・生長反応のみならず,移動・停止反応と呼ばれる副反応が起こるため,生成ポリマーは様々な分子量のポリマーの混合物となる.一方,“リビング重合”と呼ばれる精密重合法は,開始反応,生長反応のみからなっており,副反応が存在しないため,以下のような特徴がある.
pp04

  1. 分子量が重合率に比例して増加する.モノマーと開始剤の仕込みモル比あるいは重合率により生成ポリマーの分子量が制御できる.
  2. 開始反応が生長反応に比べて十分に速いと,ほぼ同一の分子量をもつ分子量分布の狭い高分子が得られる.
  3. 生成するポリマーの全ての末端に開始剤切片が導入される.

 当研究室では,特に重合触媒を利用したリビング重合を研究している.
pp05

2.ドーマント種の導入によるリビング重合

 当研究室では,炭素カチオン生長種のβ-プロトン脱離による連鎖移動,炭素ラジカル生長種の二分子停止など,副反応が本質的に不可避であるカチオン重合とラジカル重合において,ドーマント種の導入とその可逆的活性化という全く新しい原理を導入し,それぞれのリビング重合を世界に先駆けて実現した.この原理は,近年見出されたさまざまなリビング重合系で応用されており,外部条件の改善ではなく,生長種そのものをより安定なドーマント種に可逆的に変換し,生長種の濃度を低下させ副反応を抑制する点がポイントである.

3.リビングカチオン重合

 

カチオン重合では,炭素カチオン生長種のβ-プロトン脱離による連鎖移動のため,リビング重合は困難とされてきたが,当研究室では,1984年にヨウ化水素とヨウ素あるいはヨウ化亜鉛を組み合わせた開始剤系を用いてアルキルビニルエーテルを重合すると,得られるポリマーの分子量が制御され,またその分子量分布はきわめて狭く,リビングカチオン重合が可能であることを初めて見出した.



 この重合では,ヨウ化水素がビニルエーテルに求電子付加して生成する開始種がドーマント種となり,ここへ弱いルイス酸触媒としてはたらくヨウ素やヨウ化亜鉛を作用させると,ドーマント種のヨウ化アルキル末端からヨウ素を引き抜き,アクティブ種である生長炭素カチオンと対アニオンを生成する.適度なルイス酸性を有する触媒を用いると,β-プロトン脱離を起こすことなく,ドーマント種・アクティブ種の平衡を繰り返し,加えたヨウ化水素と同量のポリマー鎖がほぼ均等に生長し,リビング重合となる.
pp09
 その後の研究で,ヨウ化水素に代わる種々のプロトン酸開始剤,ヨウ素やヨウ化亜鉛に代わる種々のハロゲン化金属(ルイス酸)触媒が,モノマーやそれぞれの組み合わせに応じて見出された.また,従来からカチオン重合の触媒として用いられてきた強いルイス酸触媒であっても,添加塩基や添加塩といった方法により重合制御が可能であることが見出された.さらに,ビニルエーテルのみならず,スチレン誘導体やN-ビニルカルバゾールなどについても反応性に応じた開始剤・触媒を選択することで,リビングカチオン重合が実現している.

4.リビングラジカル重合

 

ラジカル重合では,炭素ラジカル生長種がラジカル特有の二分子停止を引き起こすため,リビング重合は困難とされてきたが,当研究室では1994年に四塩化炭素と二塩化ルテニウムトリフェニルホスフィン錯体を組み合わせた開始剤系を用いてメタクリル酸メチルを重合すると,得られるポリマーの分子量が制御され,またその分子量分布は狭く,リビングラジカル重合が可能であることをはじめて見出した.
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 この重合ではリビングカチオン重合と類似して,ハロゲン末端をもつ化合物が開始種となり,生長中はこのハロゲンでキャッピングされた状態がドーマント種となる.ここへ二価のルテニウムが作用すると,錯体からハロゲンへ一電子移動し,末端ハロゲンをラジカル的に解離させ,アクティブ種である炭素ラジカルが生成し,同時に触媒はハロゲンを取り込んで三価へと酸化される.この間にアクティブな炭素ラジカルはモノマーに付加して生長する.その後金属触媒上のハロゲンが再びラジカルと結合し,末端がドーマント種へと戻ると同時に,触媒は二価へと還元されもとの触媒を再生する.この一電子酸化還元サイクルを繰り返しながら,生長反応は進行するが,ほとんどドーマント種で存在するため,ラジカル末端の濃度はきわめて低く,このため二分子停止などの副反応が抑制される.
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 その後,分子量分布が1.10以下の極めて分子量分布の狭いポリマーを与える重合系が見出された.また,ポリマーの質量分析などから,二分子停止が抑制され,開始剤一分子からポリマー一分子が生成していることが明らかとなった.また,その後の触媒開発により,高活性錯体や水溶性錯体が見出され,鉄錯体,ニッケル錯体なども触媒として有効であることが見出された.一方,我々の発見直後に他のグループにより,多点窒素配位子を有する銅錯体がリビングラジカル重合触媒として有効であることが見出されている.これら触媒設計により,メタクリル酸エステル,アクリル酸エステル,スチレン誘導体,N-置換アクリルアミドなど多くのモノマーのリビングラジカル重合が可能となり,さらに側鎖に機能性極性基(水酸基,カルボン酸など)をもつモノマーでも保護することなく直接重合制御が可能となった.

 

5.リビング重合で合成されるポリマー

 

リビング重合では,生成するポリマーの全ての末端に開始剤切片が導入されるため,官能基を有する開始剤を用いれば,末端官能性ポリマーが容易に合成できる.また,官能基を有する停止剤と組み合わせれば両末端官能性ポリマーも合成できる.さらに,多官能性開始剤を用いれば多分岐ポリマーの合成も可能となる.また,重合終了後に新たにモノマーを加えるとさらに重合が進行するため,ブロックポリマーの合成が可能である.また,重合後に二官能モノマーを添加することでリビング鎖の架橋を利用したミクロゲル核を有する星型ポリマーの合成が可能である.これら構造の明確なポリマーは,その構造に応じた種々の用途展開が実現・期待されている.実際,当研究室ではリビングカチオン重合,リビングラジカル重合を用い,これら構造の明確なポリマーを多く合成してきた.また,側鎖に機能性官能基を有するポリマーの精密合成も数多く実現している.


 

6.今後の展望

 

リビング重合の制御性をより高めるとともに,リビング重合技術をベースにこれまでの精密重合で実現されていないシークエンス(配列)制御に挑んでいる.平成18年度から、「シークエンス高分子」という題目で、日本学術振興会 科学研究費補助金 学術創成研究費が採択され、その研究をスタートさせている。